高1 / 公共 / kk-01
公共的な空間と人間(青年期・先哲の思想・功利主義と義務論)
この単元でできるようになること
- 青年期の特徴(第二次性徴・心理的離乳・アイデンティティ・モラトリアム)と、欲求・葛藤・防衛機制を用語で説明できる
- 公共的な空間の考え方(アリストテレスの「ポリス的動物」、ハンナ=アーレントの「公共性」、ハーバーマスの「対話的理性」)を説明できる
- 古代の思想(ソクラテス・プラトン・アリストテレス、孔子・孟子・荀子・老子、仏教)と、宗教(キリスト教・イスラーム)の基本を言える
- 近代の思想(ルネサンス・宗教改革、デカルト・ベーコン、社会契約説、カント、功利主義、実存主義)を説明できる
- 功利主義(結果)と義務論(動機)、ロールズ・センの正義論を使って、具体的な問題(トロッコ問題など)を考えられる
入試での位置づけ
公共の第 1 分野「公共の扉」。共通テストでは「思想家の言葉(資料)を読んで誰の考えか・どの立場か選ぶ」「功利主義と義務論で同じ事例を評価したときの違い」「防衛機制の例を選ぶ」が定番。人物 → キーワード 2 つの対応をまず固め、次に対立軸(結果 vs 動機、自由 vs 平等)で整理します。
1. 青年期と自己形成
まずここだけ
- 青年期:子どもから大人への移行期(12〜13 歳ごろ〜20 代)。第二次性徴、心理的離乳(親からの精神的独立:ホリングワース)、第二反抗期、マージナル=マン(境界人)(レヴィン:子どもと大人の中間)
- ルソー『エミール』:青年期を「第二の誕生」と呼ぶ
- エリクソン:アイデンティティ(自我同一性)の確立が青年期の発達課題。社会的責任が猶予されるモラトリアム(心理・社会的猶予期間)。ライフサイクルの 8 段階(乳児期:信頼、青年期:アイデンティティ、成人期:親密性、壮年期:世代性、老年期:統合)。失敗するとアイデンティティの拡散
- ハヴィガースト:発達課題(職業の選択・価値観の形成など)。マズロー:欲求階層説(生理的 → 安全 → 所属と愛 → 承認 → 自己実現)。オルポート:成熟した人格
- 欲求不満(フラストレーション)と葛藤(コンフリクト)(接近=接近、回避=回避、接近=回避:レヴィン)→ 適応(合理的解決・近道反応・防衛機制)
- 防衛機制(フロイト):無意識に心を守る
名前 内容 例 抑圧 不快な記憶を無意識に押しこむ いやな出来事を忘れる 合理化 もっともらしい理由をつける 「すっぱいぶどう」(イソップ) 同一視 他人の特徴を自分に取りこむ 憧れの人のまねをする 投影 自分の感情を他人のものとみなす 自分が嫌いな相手を「向こうが嫌っている」と思う 反動形成 本心と逆の態度 好きな子に冷たくする 逃避 現実から逃げる 試験前に掃除を始める 退行 幼い段階に戻る 弟が生まれて甘える 昇華 社会的に認められる形で発散 怒りをスポーツや芸術に 代償(置き換え) 別の目標で満たす 志望校に落ちて別の大学で頑張る - 個性(パーソナリティ):ユングの内向・外向、クレッチマーの体型類型。多様性(ダイバーシティ)とインクルージョン、ジェンダー(社会的・文化的な性)と LGBTQ、ワーク・ライフ・バランス
2. 公共的な空間
ここまでできれば十分
- アリストテレス「人間はポリス的(社会的)動物」:人はともに生きる中でよく生きる
- 公共性:ハンナ=アーレントは人間の活動を労働・仕事・活動に分け、他者と言葉で関わる「活動」が公共的空間をつくるとした(『人間の条件』)。全体主義の分析(『全体主義の起原』、アイヒマン裁判「悪の陳腐さ」)
- ハーバーマス:対話的理性(コミュニケーション的合理性)による合意。市民的公共圏
- 公共:私(個人)と公(国家)の間、市民が対話で作る空間。社会参加(ボランティア・NPO)、18 歳選挙権(2016)・18 歳成年(2022)→ 主体的に参加する力
- 伝統的な日本の考え:和(聖徳太子「和を以て貴しとなす」)、世間、本音と建前、間人主義(浜口恵俊)、無常観、八百万の神・清明心、和辻哲郎「人間 = 間柄的存在」、福沢諭吉「独立自尊」、夏目漱石「自己本位」、柳田国男(常民・民俗学)、丸山真男(「無責任の体系」)
3. 先哲の思想 ── 古代
まずここだけ
| 人物 | キーワード | 内容 |
|---|---|---|
| ソクラテス | 「無知の知」「汝自身を知れ」、問答法 | 知らないことを自覚せよ。魂への配慮、知徳合一。「ただ生きるのではなく、よく生きる」→ 死刑を受け入れた |
| プラトン | イデア、哲人政治、四元徳 | 真の実在は感覚を超えたイデア界に。洞窟の比喩。魂の三分説(理性・気概・欲望)→ 知恵・勇気・節制・正義 |
| アリストテレス | 中庸、形相と質料、友愛 | 現実の事物の中に本質(形相)がある。知性的徳と倫理的徳、中庸(メソテース)、配分的正義と調整的正義、最高善 = 幸福(観想的生活) |
| ヘレニズム | ストア派(ゼノン:禁欲・アパテイア・世界市民)、エピクロス派(快楽・アタラクシア・「隠れて生きよ」) | |
| 孔子 | 仁と礼、徳治主義、『論語』 | 仁(思いやり・忠と信・孝)が礼(行動)に表れる。克己復礼。「己の欲せざる所、人に施すこと勿れ」 |
| 孟子 | 性善説、四端、王道政治、易姓革命 | 人は生まれつき善の芽(仁義礼智の四端)をもつ |
| 荀子 | 性悪説、礼治主義 | 人は欲望をもつので礼で矯正 → 法家(韓非子)へ |
| 老子・荘子(道家) | 無為自然、道(タオ)、小国寡民、万物斉同 | 作為を捨て自然に従う。柔弱謙下 |
| 墨子 | 兼愛・非攻 | 無差別の愛、侵略戦争の否定 |
| ブッダ(ゴータマ=シッダッタ) | 四法印(一切皆苦・諸行無常・諸法無我・涅槃寂静)、縁起、四諦・八正道、慈悲、中道 | 苦の原因は煩悩(渇愛)。執着を捨てる。のち大乗仏教(菩薩・空:ナーガールジュナ) |
| イエス(キリスト教) | 神の愛(アガペー)、隣人愛、黄金律「人にしてもらいたいことを人にせよ」 | 律法主義を批判。パウロ:信仰・希望・愛。アウグスティヌス・トマス=アクィナス(スコラ哲学) |
| ムハンマド(イスラーム) | アッラーへの絶対服従、六信五行、『クルアーン』、ウンマ | 神の前の平等、偶像崇拝の禁止 |
| ユダヤ教 | ヤハウェ、選民思想、律法(トーラー・十戒)、メシア |
4. 先哲の思想 ── 近代以降
まずここだけ
| 人物 | キーワード | 内容 |
|---|---|---|
| ルネサンス | ヒューマニズム、万能人(レオナルド)、ピコ=デラ=ミランドラ「自由意志」、マキァヴェリ『君主論』 | 人間中心へ |
| 宗教改革 | ルター(信仰のみ・聖書中心・万人司祭・『95 か条』1517)、カルヴァン(予定説・職業召命観 → ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』) | |
| モラリスト | モンテーニュ「ク=セ=ジュ(私は何を知るか)」、パスカル「考える葦」 | |
| ベーコン | 経験論、「知は力なり」、帰納法、4 つのイドラ(偏見) | 観察・実験 |
| デカルト | 合理論、「われ思う、ゆえにわれあり」、方法的懐疑、演繹法、物心二元論 | 理性 |
| 社会契約説 | ホッブズ(『リヴァイアサン』:自然状態は「万人の万人に対する闘争」→ 主権者に権利を譲渡)、ロック(『統治二論』:自然権(生命・自由・財産)を守るため政府に信託、抵抗権 → アメリカ独立宣言)、ルソー(『社会契約論』:一般意志・人民主権・直接民主制 → フランス革命) | kk-02 |
| モンテスキュー | 『法の精神』三権分立 | |
| カント | 義務論、道徳法則、「汝の意志の格率が常に同時に普遍的立法の原理となるように行為せよ」、人格は手段でなく目的、自律 = 自由、目的の王国、『永遠平和のために』(国際連盟の理念) | 結果でなく動機(善意志)を重視。「善意志」 |
| ヘーゲル | 弁証法(正・反・合)、絶対精神、人倫(家族 → 市民社会 → 国家) | 歴史は自由の実現の過程 |
| 功利主義 | ベンサム「最大多数の最大幸福」、量的功利主義、快楽計算、制裁(サンクション)、パノプティコン。J.S. ミル:質的功利主義「満足した豚より不満足な人間」、他者危害の原則(『自由論』)、黄金律を理想 | 結果で善悪を判断 |
| 実存主義 | キルケゴール(主体的真理・実存の三段階・単独者)、ニーチェ(「神は死んだ」・超人・ニヒリズム・永劫回帰・ルサンチマン)、ハイデガー(死への存在・ダス=マン)、ヤスパース(限界状況)、サルトル(「実存は本質に先立つ」「人間は自由の刑に処せられている」・アンガージュマン) | |
| プラグマティズム | パース・ジェームズ・デューイ(道具主義・問題解決学習・創造的知性) | 有用性 |
| 社会主義 | マルクス(唯物史観・疎外・階級闘争) | |
| 現代 | フランクフルト学派(アドルノ・ホルクハイマー:道具的理性批判、フロム『自由からの逃走』)、フーコー(権力と知・生権力)、レヴィ=ストロース(構造主義・『野生の思考』)、レヴィナス(他者の顔)、ソシュール、ウィトゲンシュタイン(言語ゲーム) | |
| 正義論 | ロールズ『正義論』:原初状態・無知のヴェール → ①平等な自由 ②格差原理(不平等は最も不遇な人の利益になるときだけ)・機会の公正な平等。セン:潜在能力(ケイパビリティ)の平等(→ HDI)。ノージック(リバタリアニズム・最小国家)、サンデル(コミュニタリアニズム・共通善)、ハーバーマス(討議倫理) | |
| 生命・環境倫理 | ヨナス(未来世代への責任)、レオポルド(土地倫理)、シンガー(動物の解放)、生命への畏敬(シュヴァイツァー)、ガンディー(非暴力・アヒンサー)、マザー=テレサ、キング牧師 |
5. 考え方の道具 ── 功利主義と義務論
まずここだけ
| 功利主義(帰結主義) | 義務論(動機主義) | |
|---|---|---|
| 代表 | ベンサム・ミル | カント |
| 判断基準 | 結果:幸福の総量を最大にする行為が正しい | 動機・原則:普遍的な道徳法則に従う行為が正しい |
| 強み | 多数の幸福・政策の判断に使える(費用便益分析) | 少数者の権利・人間の尊厳を守る |
| 弱み | 少数者の犠牲を正当化しうる | 結果が悪くても原則を守る → 硬直 |
トロッコ問題:5 人を救うため 1 人を犠牲にするレバーを引くか? → 功利主義「引く(5 > 1)」、義務論「人を手段にしてはならない → 引かない」。橋の上の男を押す版では多くの人が直感的に拒む → 行為と結果のどちらを見るか。 公正の観点:手続きの公正(決め方)・機会の公正(スタートライン)・結果の公正(分配)。ロールズの格差原理、効率と公正のトレードオフ(kk-05)。 思考実験で「誰の・どの幸福を・どう数えるか」「手段にされる人はいないか」「合意できる決め方か」を確かめる。
6. よくある間違い
- アイデンティティの確立を提唱した人をフロイトとする(エリクソン)
- 「すっぱいぶどう」を投影とする(合理化)
- 性善説と性悪説を逆にする(孟子 = 善、荀子 = 悪)
- 「無知の知」をプラトンとする(ソクラテス)
- イデア論をアリストテレスとする(プラトン。アリストテレスは形相・質料・中庸)
- 「われ思う、ゆえにわれあり」をベーコンとする(デカルト。ベーコンは「知は力なり」)
- ホッブズの自然状態を「平和」とする(万人の万人に対する闘争)
- カントを功利主義とする(義務論。功利主義はベンサム・ミル)
- 「最大多数の最大幸福」をミルとする(ベンサム。ミルは質的功利主義)
- ロールズの格差原理を「不平等は一切認めない」とする(最も不遇な人の利益になる不平等は認める)
- 「実存は本質に先立つ」をニーチェとする(サルトル)
7. 自己チェック
- 青年期の用語(心理的離乳・アイデンティティ・モラトリアム・マージナルマン・第二の誕生)と提唱者を言えるか
- 防衛機制 9 つを例つきで言えるか
- ソクラテス・プラトン・アリストテレス、孔孟荀老、ブッダのキーワードを言えるか
- ベーコン・デカルト、社会契約説 3 人、カント、ベンサム・ミル、実存主義 5 人のキーワードを言えるか
- 功利主義と義務論の違いをトロッコ問題で説明できるか
- ロールズの 2 原理とセンの潜在能力を言えるか
8. 小テストへ
→ 小テスト(kk-01)
関連する単元
- 前提:c-01 現代社会と私たち(中学公民)、ht-02 啓蒙思想と市民革命
- 次に進む:kk-02 民主政治の原理と日本国憲法(社会契約説 → 憲法)
- ここで使う考え方が出てくる:kk-05 効率と公正、kk-08 社会保障(正義論)、gt-08 SDGs(センの HDI)
参考資料
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 公民編』── 「公共」A 公共の扉 (1) 公共的な空間を作る私たち、(2) 公共的な空間における人間としての在り方生き方
- 各思想家の著作(岩波文庫などの邦訳):プラトン『ソクラテスの弁明』、カント『道徳形而上学の基礎づけ』、ミル『自由論』、ロールズ『正義論』
受験のしらべ / https://juken-shirabe.pages.dev/daigaku/social/kk-01/ / 更新 2026-09-13