高1 / 公共 / kk-08
労働と社会保障(労働法・年金・少子高齢化)
この単元でできるようになること
- 労働三法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法)の内容と、労働基準法の主な数字(1 日 8 時間・週 40 時間、最低賃金、有給休暇)を言える
- 日本の雇用の変化(日本的経営 → 非正規雇用 4 割・成果主義)と課題(長時間労働・過労死・格差・ワークライフバランス・働き方改革・外国人労働者)を説明できる
- 社会保障の 4 つの柱(社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生)と、社会保険 5 種の内容を説明できる
- 年金制度(国民年金・厚生年金の 2 階建て、と積立方式、マクロ経済スライド)と医療・介護の財政を説明できる
- 少子高齢化(高齢化率 29%・出生率 1.15)が社会保障に与える影響と、給付と負担の選択(高福祉高負担か低福祉低負担か、消費税・世代間公平・ベーシックインカム)を考えられる
入試での位置づけ
「労働基準法の内容と違反例」「非正規雇用の割合と問題」「社会保障の 4 柱の分類」「年金の賦課方式と積立方式の違い」「社会保障給付費のグラフ(年金・医療・介護の内訳)」が頻出。数値(給付費 約 140 兆円、年金 45%・医療 30%、国民負担率 45%)は最新を一次資料で確認する前提で。
1. 労働法
まずここだけ
労働者は使用者より弱い立場 → 憲法 27 条(勤労の権利・労働条件の法定)・28 条(労働三権:団結権・団体交渉権・団体行動権)で守る。
| 法律 | 内容 |
|---|---|
| 労働基準法(1947) | 労働条件の最低基準。1 日 8 時間・週 40 時間(法定労働時間)、週 1 日の休日、時間外・休日労働には36 協定と割増賃金(25% 以上、深夜 25%、休日 35%、月 60 時間超は 50%)、年次有給休暇(6 か月勤務で 10 日〜、年 5 日の取得義務 2019)、男女同一賃金、15 歳未満の労働禁止、解雇予告 30 日、労働基準監督署が監督。就業規則(10 人以上)。時間外労働の上限規制(2019:原則月 45 時間・年 360 時間、特例でも年 720 時間) |
| 労働組合法(1945) | 労働組合の結成・団体交渉・労働協約・争議権(正当な争議は刑事・民事免責)、不当労働行為の禁止(組合員の差別・団交拒否・支配介入)、労働委員会 |
| 労働関係調整法(1946) | 労使の争いを労働委員会が斡旋・調停・仲裁。公益事業の争議の予告、緊急調整 |
| 最低賃金法(1959) | 都道府県ごとの最低賃金(2025 年度 全国平均 1,121 円、初の 1,100 円超。政府目標 1,500 円) |
| 男女雇用機会均等法(1985、1997 強化) | 募集・採用・昇進の差別禁止、セクシュアル=ハラスメント防止(1997)、マタハラ防止(2016)。女子差別撤廃条約批准のため |
| 育児・介護休業法(1991) | 育休(子 1 歳まで、最長 2 歳)、男性の育休促進(産後パパ育休 2022)。男性取得率 約 30%(2023) |
| 労働者派遣法(1985) | 当初は専門職のみ → 1999 原則自由化 → 2004 製造業解禁 → 2015 改正。派遣切り(2008)→ 日雇い派遣の原則禁止 |
| 労働契約法(2007) | 解雇権濫用の禁止、有期契約 5 年超で無期転換(2013) |
| パートタイム・有期雇用労働法(2020) | 同一労働同一賃金(正規と非正規の不合理な待遇差の禁止) |
| 働き方改革関連法(2018 → 2019〜) | 時間外労働の上限規制、有給 5 日取得義務、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度、勤務間インターバル(努力義務) |
| 労働安全衛生法・労災保険法 | 安全・健康、ストレスチェック、労災認定(過労死ライン:月 80 時間超の残業) |
公務員:争議権なし(人事院勧告で代替)。労働組合の組織率は約 16% に低下(企業別組合、連合、春闘)。
2. 日本の雇用の変化と課題
まずここだけ
- 日本的経営(高度成長期〜):終身雇用・年功序列賃金・企業別組合(「三種の神器」)→ 1990 年代以降、成果主義・非正規雇用の拡大・転職の増加・ジョブ型雇用
- 非正規雇用(パート・アルバイト・派遣・契約):労働者の約 4 割(約 2,100 万人)、女性の半数以上。賃金は正規の 6〜7 割、雇用が不安定、社会保険・教育訓練が不十分 → ワーキングプア(年収 200 万円以下)、格差の固定化(就職氷河期世代)。同一労働同一賃金・無期転換で対応
- 長時間労働:過労死・過労自殺(電通事件 2015 → 働き方改革)、サービス残業、ブラック企業。年間労働時間は減少(約 1,600 時間)だが正社員は長い
- 女性:M 字カーブ(出産期に就業率が下がる)は解消に向かうが、L 字カーブ(正規雇用率が下がる)が残る。男女の賃金格差(女性は男性の約 75%)、管理職比率 約 15%、ガラスの天井、女性活躍推進法(2015)、ジェンダーギャップ指数 118 位
- 高齢者:高年齢者雇用安定法(65 歳までの雇用確保義務、70 歳まで努力義務)、定年の延長
- 外国人労働者:約 230 万人(2024)。技能実習制度(人権問題 → 2027 年から育成就労制度へ)、特定技能(2019)、高度人材。多文化共生
- 若者:フリーター・ニート、ジョブカフェ・ハローワーク、インターンシップ、キャリア教育
- 障害者:法定雇用率(民間 2.5%、2026 年度から 2.7%)
- 新しい働き方:テレワーク(コロナ禍で普及)、フレックスタイム、裁量労働制、副業、フリーランス(フリーランス新法 2024)、ギグワーカー(ウーバー配達員など:労働者性の問題)、AI と雇用
- ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)、ディーセント・ワーク(ILO:働きがいのある人間らしい仕事)
- 失業:完全失業率 約 2.5%(低いが、ミスマッチ・非正規の問題)、有効求人倍率 約 1.2、雇用保険(失業給付)、職業訓練。失業の種類:摩擦的・構造的・景気的
3. 社会保障の 4 つの柱
まずここだけ
社会保障:憲法 25 条(生存権)を実現するしくみ。歴史:エリザベス救貧法(1601 英)→ ビスマルクの社会保険(1880 年代独「飴と鞭」)→ ワイマール憲法(1919 生存権)→ アメリカ社会保障法(1935)→ イギリスベバリッジ報告(1942「ゆりかごから墓場まで」)→ 福祉国家。
| 柱 | 内容 | 財源 | 例 |
|---|---|---|---|
| 社会保険(中心) | 加入者が保険料を払い、事故(病気・老齢・失業など)のときに給付 | 保険料+税 | 下の 5 種 |
| 公的扶助 | 生活に困った人に最低限度の生活を保障 | 全額税 | 生活保護(生活・住宅・教育・医療など 8 扶助、生活保護法、受給 約 200 万人、捕捉率の低さ・スティグマが課題) |
| 社会福祉 | 社会的に支援が必要な人へのサービス | 税 | 児童福祉・障害者福祉・高齢者福祉・母子福祉(福祉六法)、ノーマライゼーション、バリアフリー・ユニバーサルデザイン |
| 公衆衛生 | 国民の健康を守る | 税 | 感染症対策(保健所・ワクチン・COVID-19)、上下水道、食品衛生、予防医療 |
社会保険 5 種:
| 保険 | 内容 | 制度 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 病気・けが。自己負担 3 割(70〜74 歳 2 割、75 歳以上 1 割、所得により 2〜3 割、子どもは自治体で軽減)。国民皆保険(1961) | 健康保険(会社員)・国民健康保険(自営業・無職)・共済・後期高齢者医療制度(75 歳以上、2008) |
| 年金保険 | 老齢・障害・遺族。国民皆年金(1961) | 下記 |
| 雇用保険 | 失業給付・育児休業給付・職業訓練 | 労使で負担 |
| 労災保険 | 仕事中・通勤中のけが・病気・死亡 | 事業主が全額負担 |
| 介護保険(2000) | 40 歳以上が保険料を払い、65 歳以上(特定疾病は 40 歳以上)で要介護認定を受けると介護サービス(自己負担 1〜3 割)。市町村が運営 | ケアマネジャー・地域包括ケア |
4. 年金制度
まずここだけ
- 2 階建て:1 階 国民年金(基礎年金)(20〜59 歳の全員が加入、保険料 月 約 1.7 万円、満額 月 約 6.9 万円(2025 年度)、半分は税)+ 2 階 厚生年金(会社員・公務員。保険料は給与の 18.3% を労使半分ずつ、報酬に比例した給付。2015 年に共済年金を統合)+ 3 階 企業年金・iDeCo(私的年金)
- 受給開始は原則 65 歳(60〜75 歳で繰り上げ・繰り下げ可)。加入期間 10 年以上(2017 年に 25 年から短縮)
- 賦課方式(日本の基本):その年の現役世代の保険料で、その年の高齢者の年金を払う(世代間扶養)→ インフレに強いが、少子高齢化で現役の負担が重くなる(1960 年 11 人で 1 人 → 2025 年 約 2 人で 1 人 → 2060 年 1.3 人で 1 人)
- 積立方式:自分が払った保険料を積み立てて将来受け取る → 少子化の影響は受けないが、インフレに弱い・運用リスク・移行が困難(二重の負担)
- 改革:2004 マクロ経済スライド(現役人口の減少と寿命の延びに応じて給付の伸びを抑える)、保険料の上限固定、GPIF(年金積立金の運用、約 250 兆円)、基礎年金の国庫負担 2 分の 1(2009)、被用者保険の適用拡大(パートも厚生年金へ)、年金記録問題(2007)、所得代替率(現役収入の約 6 割 → 5 割へ低下の見込み)、在職老齢年金の見直し(2025 改正)
- 国民年金の未納(納付率 約 8 割)と無年金・低年金の問題
5. 少子高齢化と社会保障の財政
まずここだけ
- 社会保障給付費:約 140 兆円(2024 年度、GDP の約 25%)。内訳 年金 約 45%・医療 約 30%・福祉その他(介護・子育て)約 25%。1990 年の 47 兆円から 3 倍。財源:保険料 約 6 割・税 約 4 割(国の一般会計の社会保障関係費 約 38 兆円 = 歳出の 3 分の 1)
- 国民負担率(税 + 社会保険料 ÷ 国民所得):約 45%(財政赤字を含む潜在的国民負担率は 50% 超)。高福祉高負担(北欧:60〜70%)・中福祉中負担(日独仏)・低福祉低負担(米:約 35%)の選択
- 少子高齢化(gt-06):高齢化率 29%、合計特殊出生率 1.15、2025 年問題(団塊の世代が全員 75 歳以上 → 医療・介護費の急増)、2040 年問題(高齢者数ピーク・現役世代の急減)
- 課題と選択:
- 世代間の公平:高齢者への給付が手厚く、子育て・若者への支出が少ない(「シルバー民主主義」)→ 全世代型社会保障(2019〜)、こども家庭庁(2023)、児童手当の拡充(2024:所得制限撤廃・高校生まで)、こども・子育て支援金(2026〜医療保険料に上乗せ)
- 給付の抑制 vs 負担の増加:年金受給開始年齢・医療費の窓口負担(75 歳以上の 2 割負担 2022)・消費税(社会保障と税の一体改革:10% の増収分を社会保障へ)・保険料率
- ベーシックインカム(全員に一定額を無条件給付)の議論、給付付き税額控除
- 社会保障と経済成長:社会保障は「負担」だけでなく雇用(医療・介護で 900 万人)と安心による消費を支える面もある
- 地域包括ケア・介護人材不足(処遇改善・外国人・IT)、8050 問題・ヤングケアラー・ひきこもり・孤独死 → 地域共生社会
- セーフティネット:雇用保険 → 求職者支援制度・生活困窮者自立支援(第 2 のネット)→ 生活保護(最後のネット)
6. 計算の型
ここまでできれば十分
- 割増賃金:時給 1,200 円で残業 2 時間 → 1,200 × 1.25 × 2 = 3,000 円。深夜(22〜5 時)の残業は 1.5 倍
- 医療費の自己負担:医療費 5 万円・3 割負担 → 1.5 万円
- 厚生年金保険料:月給 30 万円 × 18.3% = 54,900 円 → 本人負担は半分の 27,450 円
- 国民負担率 =(税 + 社会保険料)÷ 国民所得 × 100
- 高齢者 1 人を支える現役世代の数 = 生産年齢人口 ÷ 老年人口
- 賦課方式の保険料:高齢者 1 人の年金 10 万円を現役 2 人で支える → 1 人 5 万円、現役 1.3 人なら 約 7.7 万円
7. よくある間違い
- 法定労働時間を 1 日 8 時間・週 48 時間とする(週 40 時間)
- 労働三権と労働三法を混同する(三権 = 団結・団交・団体行動、三法 = 基準法・組合法・調整法)
- 労災保険を労使で折半とする(事業主が全額)
- 生活保護を社会保険とする(公的扶助。全額税)
- 介護保険の加入を 65 歳からとする(保険料は 40 歳から、サービスは原則 65 歳から)
- 国民年金の加入を「20 歳以上の働いている人」とする(20〜59 歳の全員。学生も)
- 厚生年金保険料を本人が全額負担とする(労使で半分ずつ)
- 日本の年金を積立方式とする(賦課方式が基本)
- 賦課方式が「インフレに弱い」とする(インフレに強く、少子化に弱い。積立方式が逆)
- 社会保障給付費の最大項目を医療とする(年金 約 45%)
- 非正規雇用の割合を 2 割とする(約 4 割)
- 医療費の自己負担を全年齢 3 割とする(75 歳以上は原則 1 割など)
8. 自己チェック
- 労働三法の内容と労働基準法の数字(8・40・25%・10 日・15 歳)を言えるか
- 日本的経営の三種の神器と、非正規 4 割・長時間労働・女性・外国人の課題を言えるか
- 社会保障の 4 柱と財源、社会保険 5 種の内容を言えるか
- 年金の 2 階建て、賦課方式と積立方式の長所短所、マクロ経済スライドを言えるか
- 給付費 140 兆円の内訳、国民負担率 45%、高福祉高負担の選択を言えるか
- 割増賃金・自己負担・保険料・支える人数を計算できるか
9. 小テストへ
→ 小テスト(kk-08)
関連する単元
- 前提:c-07 労働と社会保障(中学公民)、kk-02 社会権、gt-06 人口
- 次に進む:kk-09 国際政治と国際経済
- ここで使う考え方が出てくる:kk-06 財政(社会保障関係費・消費税)、kk-01 正義論(ロールズ・世代間公平)、ht-07 労働運動の歴史
参考資料
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 公民編』── 「公共」B (1) 経済的な主体となる私たち(雇用・労働・社会保障)
- 厚生労働省『厚生労働白書』、「労働力調査」(非正規雇用比率)、「地域別最低賃金」、「年金制度の仕組み」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」
- 財務省「国民負担率の国際比較」
受験のしらべ / https://juken-shirabe.pages.dev/daigaku/social/kk-08/ / 更新 2026-09-13